イレブンソウル -ケーキ屋に並ぶかつ丼のような漫画-

まず始めに今回紹介するイレブンソウル(以下士魂)はサッカー漫画ではありませんので悪しからず。
ジャンルはSFバトルアクション青春群像劇哲学味ラブコメ仕立てと言ったところでしょうか。
まぁ要約するとバイオハザードで生まれた化け物を、
訓練された強化人間がパワードスーツみたいなものを使って駆除するってお話です。
戦闘作画は圧巻の一言で、どの戦いも熱く激しく魅せてきます。
特に設定や世界観的にガンパレやマブラヴ、
進撃やシドニアって単語に反応する人種ならばより一層楽しめる作品でしょう。

あらすじ

 

21世紀中盤、人類の文明世界は大きな試練を迎えた。
発達した遺伝子技術は世界中で巨大な市場と莫大な利益を生み、研究が加速。
やがて自らの欠点を他の遺伝子を取り込むことで補完する発展型成長遺伝子が発見され、
人類は遂に「不老不死」の夢に肉薄した。
しかし、研究機関がこの遺伝子の実験サンプルをバイオハザードしたことで事態は急変。
自然界から無制限に遺伝子を取り込み、人類の予想を遥かに超えて進化した「彼ら」は人類世界を侵略し始める。
「シャヘル」と名付けられた彼らは人類の武力を次々に撃破し、わずか2年で南北アメリカ大陸を制圧。
文明誕生より1万年…。人類は初めて自らより強力な「種」と対峙していた。
―アメリカ合衆国が世界地図から消えたその年…―
日本政府は対シャヘルのための特殊装備を有する日本「軍」を再編。
ほぼ1世紀ぶりに海外派兵を前提とした兵力を保有することとなった。
その要となったのが強化手術によって諸神経の高速化を図った兵士を、外骨格兵装に搭乗させる機甲歩兵部隊。
通称「侍」部隊である。
侍を育成、運用する首相直属の統括局は「侍所」と呼ばれ、わずか数年で世界一級の兵士達を輩出。
侍は各国のベースキャンプに派遣され、対シャヘルの戦闘において目覚しい戦果を上げた。
同時期。シャヘルに対抗すべく新生国際連合は太平洋上と大西洋上に人工島を築き、
シャヘルの南北アメリカ大陸からの流出を封じることに成功。しかしアメリカ大陸奪還は失敗し、多大な犠牲を払うこととなった。
人類とシャヘルは大海を挟んで睨み合い、侵略と防衛を繰り返す長期戦に突入。世界各国は莫大な資金を投じて軍備を強化し始める。
もはや「暴力」を除いて、事態の解決を図れるものはなくなっていた。
(イレブンソウル第一巻引用)

 

この作品を読むにあたって

 

もうお気づきかもしれませんが、士魂は重めの世界観です。
掲載雑誌にぶっちゃけ合わない漫画だったため当時著者の目に留まったのを覚えています。
描写もグロは当たり前だし、絵柄も昨今の萌路線とは違います。(まぁ別の色気はあるのですがw)
情報量が普通の漫画に比べて多く、また描き込みも細かいのが特徴です。
個人的には、電子書籍媒体での読書はあまりおすすめできません。
文字がそもそも多くて細かいので、スキャンの具合なのか潰れて読みずらいことが多々ありました。
また魅せ場であるアクションシーンを始め、見開きでの描写が多い事も紙媒体を薦める理由です。
それらを踏まえて魅力を幾つかご紹介します。

 

ヒトの持つ可能性と欲望のドラマ

 

士魂の魅力は多々あれど、やはり外せないのが主人公達の成長です。
物語の主人公・塚原武道(あだ名はたけちー)。
苺オレが好物で特技は剣道。
天体観測が趣味な穏やかで健全な青年です。
兵士向けな性格でもなく、望んで入隊したわけでもなく、入隊前の評価適性はE。
しかし何か訳アリで物語が始まる前は軍病院に三年程入院していたとかで・・・
そんな彼と同期で特Aで入隊したツンデレ秀才なヒロイン九十九五六八(つくも・いろは)に罵倒され、
時にはノックアウトされつつも、
異常甘党完璧兵士な隊長に、不思議系通信兵、釣りキチ副長、
板前工兵あんど幼馴染、餌付け狙撃兵とアットホームな部隊員に励まされ、
挫けそうなった時も、訳アリ部隊の乃木隊長に背中を押され、
とある「志」の為に侍として成長していきます。
物語的には1~7巻(第一部)がこれに相当します。
特に7巻は士魂全体で見ても屈指の名シーンであり、たけちーが主人公であることを証明します。
シュチュエーションも演出も、そして何より今までの積み重ねが遂にって感じでそりゃもうスゴイ!
バトルものなので当然ですが劇中では、人が結構な頻度で死んでいきます。
どんなキャラクターだろうと結構容赦なく退場します。
死亡フラグがちゃんと建てられる人物はまだ救いがあるのですが・・・
まぁそれもまたシャヘルとの生存競争なのです。
物語の大筋はシャヘルとの闘いなのですが、
その裏の人間同士のやりとりもきっちり描かれています。
シャヘルを殲滅した世界の戦後処理、延いては世界の覇権を念頭に置いた政治的駆け引きも1つの見どころです。
序盤からも伏線を張られているのですが、8巻以降(第二部)大きく描写されます。
そもそものシャヘル誕生もヒトの欲望が招いたものですが、
第二部に入ってからの各キャラクターの思想がダークマターもいいところで、
ヒトの裏側をこれでもかと詰め込んできます。
そのせいで士魂は第一部だけでいいというファンもいる程です。(著者の友人もその一人)
また各話タイトルも意味深と言うか厨二で楽しませてくれます。
(五六□八でラッキーレス、□□七□でホーリーナンバーなどなど。)
物語の冒頭には偉人や軍人の名言、童話や神話・幸福論なんかの引用で始まることが多いです。
特に「オズの魔法使いへ」のオマージュになっている設定や構成は第二部の重要な要素です。
解る人からすればより一層、作者の意図がくみ取れるでしょう。
まぁ純粋にカッコいい(厨二的)のですけどね。

 

たけちー電波相談室

 

漫画を読む上でストーリーが魅力的なのは当然です。
ここからは士魂を士魂たらしめる要素の紹介です。
突然ですが皆さん「幸せ」って何ですか?
「生きる」ってなんですか?
なんで「人を殺してはいけない」んですか?
などなど当たり前だけど、急に尋ねられると返答に困る素朴な疑問ってありませんか?
これは作中でたけちーが実際に疑問に思い、
知り合いに相談していくという士魂のテンプレなのですが、その知り合いの返しがどれも深く秀逸なのです。
皆それぞれ考えさせられ、時には笑わせてくれる、それでいて納得のいく答えを返してくれます。
この電波相談の締めは決まって乃木隊長です。
乃木隊長は死刑囚で構成された部隊の隊長で、彼も何かとやらかし凶悪な性格。
しかし面倒見も良く、一部になにかと慕われて彼独自の価値観がある模様。
実はこの漫画のタイトルである「イレブンソウル」が何かということも彼が語ってくれます。
これはたけちーが幸せって何だろうと乃木隊長に尋ねた際のことです。
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士(モノノフ)とは・・・十の経験を一に帰結させる人種だと・・・
-略-
「一」つの事を成し遂げる為に「十」の経験を注ぐ。
一つのことを成し遂げるその瞬間・・・
そこに心の全てを傾けて生きる・・・
それが「志」ある生き方なんだと・・・・
そんな生き方ができるなら俺は「幸せ」だな・・・・
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「士」の「心」。
それこそがイレブンソウルという訳です。
ちなみに乃木隊長の外骨格兵装には「志」とペイントされており、
後に最終決戦に臨むたけちーの外骨格兵装にも同様のペイントが施されるのも熱い展開です。

 

無冠の傑作を是非

 

個人的に士魂はかなり楽しめて人に布教しているのですが、
よくある漫画大賞的なおススメに挙がることは皆無ですし、
そもそもの知名度が低すぎる気もします。
掲載誌もどちらかと言えばマイナーでしたしね。
SFバトル物と言うのも一定数の読者には響くかもしれませんが、
やはり人を選ぶ気がします。どちらかと言うと男性向けなのかな?
書店で見かけても、単行本の表紙を始めイラストに少し癖があると感じるかもしれない。
そういう著者も最初に単行本を見た時はちょっと思うところはあった。
実は作者である戸土野正内郎(とどの・せいうちろう)氏は、色覚異常があり色の大半を区別しにくいそうです。
桜と雪が同じ色だと思っていた時期があったとか後書で語っています。
まぁなんというかカラーは独特です。さらに言うと基本的にアシスタントを雇わないワンマンアーミーであり、その生き様からタイトロープダンサーの名を欲しいままにしているのだとか。
そんな先生ですが、物凄く描き込みが細かいことに定評がります。
その書き込みに加えて戦闘描写もスタイリッシュで、特に最終巻はバトル漫画の1つの境地といっても過言ではありません。
ほんと侍の斬りあいに言葉は要らないですね。

 

まとめ

・個性的なキャラクターによる笑いと涙と萌えと燃えの人間ドラマ。
・深層心理にあるドス黒い欲と極限状態で浮き彫りになる人間性。
・哲学的名セリフの大放出。
・圧倒的アクション。

公式応援Twitterアカウント@harigane5で最終巻の後日談や、
戸土野先生の落書きが公開されています。