ガイアの夜明け/認知症を抱えながらも働ける社会へ(ネッツトヨタ仙台の取り組み

認知症を抱えつつもフォルクスワーゲンの接客をする丹野さんの様子

http://www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backnumber3 より
丹野さんのフォルクスワーゲン店での接客風景

病気や障害を理由に仕事を諦めない意思と、それにこたえた社長の職場づくり

  • ガイアの夜明けの特集は認知症を絡む経済的問題をとりあげられました。
  • あるワーカーズコープ(*1)の旅行会社では認知症の妻を介護しながら働き続ける姿が映されています。
  • AEONでは認知症の高齢者が勝手に買い物と途中で商品を破いて食べ始めるようなケースにどう接客するか特集されています。

今回の88ちゃんねるでは番組前半の若年性認知症にかかりながら働き続ける自動車販売店に勤め続ける丹野智文さん(41歳)宮城県仙台市の様子について特集を組むことにします。

宮城県仙台市で車のディーラーネッツトヨタ仙台で働き、チームリーダーを務める丹野智文さん(41歳)はかつて自動車販売において営業のトップセールスマンでした。奥さんと子供がいらっしゃいます。

39歳になった時正式に自分がアルツハイマー性の若年性認知症だったことがわかります。

きっかけはお客様の部屋へ伺う際に、住所・部屋番号がわからない状態になり、一度会社に戻ります。ところが再度会社にもどって確かめてみたものの、お客様のご住所の前まで来て部屋の番号を思い出すことができなくなります。

これを往復したそうです。丹野さんは、自分の異常をハッキリと確信して受診をし、自分の病名に大変なショックを受けたのです。

病院の診断結果を聞き目の前が真っ暗になり、恐る恐る社長へ報告する丹野さん

「妻も子供いるのに会社をクビになったらどうしたらよいのか?何としてでも働きたい。しかし、会社が解雇したら働く場所はどうやって確保したらいいのか」苦悩した丹野さんの表情がカメラが捉えていました。

丹野さんは切実に自分の病名を社長に告げた場面を語ります。

社長は「体が動く」から仕事はたくさんあると丹野さんに励まし解雇などはしなかった。

涙が顔から滴り、丹野さんは慌ててハンカチで拭うのです。

「(丹野さんは)まだ動けるんだろう、、、。机を動かすとか仕事はまだたくさんある」そのような社長が丹野さんにできる仕事はもうなくなったとは決して言わなかったのです。丹野さんは、机を動かす仕事なんてそんなにないはずなのに優しく声をかけ働く場所をきちんと確保する姿勢を見せた社長の発言に大変嬉しかったと語っていました。

いざ自分が重たい病気でも所属できる職場があるという安心感を目指した社長

当時のネッツトヨタ仙台の社長は、自分が病気になってもきちんと自分の働く場所が確保されていることが会社で働く安心感を作ることができるとコメントします。

誰であれ中高年にさしかかり歳を重ねるにつれていつ重たい病気にかかるかわからないリスクを抱えながらビジネスパーソンは生きなければなりません。

大手の名の知れた大手企業だから病気や障害を抱えつつも働いていられるのでは?そのように筆者にはかすかな疑問が湧きました。

番組を見ていると認知症にかかったことを理由に簡単に解雇されてしまう現状が逆に浮き彫りになっているような気がしたからです。

若年性アルツハイマー型認知症にも負けず、総務関係で職場でリーダーとして働いている。

10年来のお客様なら顔と名前もすぐに頭に浮かぶ丹野さんですが、3日前、昨日のような短い時間でしかなじみのないお客様に対して丹野さんの病気の障害は営業マンにとっては戦力として働くことは難しいのでしょう。

退職金の仕事など丹野さんは総務や人事の職場でチームリーダーとして働いているそうです。

周囲の同僚は丹野さんを病気を持っている人として見ることは少ないといいます。ただ、朝の出勤が遅いと迷っているのではないかと心配になると冗談を飛ばしていました。

丹野さんはクビから提げるネームカードがあり、自分が認知症を患っているためにどこに今いるのか急に分からなくなるケースに備えて、連絡先の電話番号や住所などが書かれているのです。

もし丹野さんが記憶に異常を感じて頭が真っ白になってしまった場合にでも周囲の人に助けを求めることができるように備えています。

発症の様子や記憶障害のための仕事の工夫

今、目の前の仕事が何をしているか分からなくなる、はっ記憶が消えてしまう記憶についての障害が丹野さんにはあります。

自らが書いたスナフキンの表紙のついたノートには自筆で何をどのような順番でどうすればよいのか丹野さんがふと記憶をなくした時もさっと作業に戻れる特別なマニュアルが作られています。

マルマンのノートを別に1冊用意して、自分がした仕事の進捗を自らに知らせるため丸の字を書いてチェックマークをつけて確実に仕事を進めて行きます。

そして、付箋を駆使し手順に間違いがないように迷わない工夫が凝らしてあります。

様々な送り先、何種類もの書類のコピーやファイリングなど営業から総務に異動があったからといって楽な仕事だけを任されているわけではないことに筆者は特に注目しました。障害者に出来る仕事は負担を軽くして楽な仕事をさせておくという企業風土が強い場面を感じているからです。

この丹野さんの着実なスタイルはネッツトヨタ仙台の社員も注目し参考にされているそうです。テレビの取材でコピーを取っている時に丹野さんに「今扱う書類は何のものですか?」と質問されて「えっと、わからないです」とこたえざるをえない丹野さんの若年性アルツハイマー認知症の障害は視聴者にえ?と驚かせたはずです。

少し時間をおいて再度番組スタッフが質問すると、丹野さんはちゃんと把握しているのです。時々記憶がフッと飛んでしまうのだそうです。

そんな記憶障害を持ちながらも独自の工夫をいくつも駆使して働いているのです。

連続して長時間の頭を使うことは認知症にとって大きな負担になるため、食後20分から30分の休憩は医師より指示、職場はそれに配慮

 女性社員に囲まれながら社員食堂での食欲は盛ん。20分から30分の昼食後の休憩を周囲が見守る

丹野さんの食堂のお昼の光景が出ていました。女性社員中心に囲まれながら、食欲は旺盛に箸が進みます。

特徴的なのが、丹野さんは昼食後に20分から30分の休憩を取ることが医師から指導を受けていることです。

職場をそれを理解しています。これは記憶の障害のあるなしに関わらず、ビジネスパーソンが食事後に昼寝をすることを励行している企業もあります。

国際的にみてシエスタといって国民がお昼には少し休むという文化すらあります。働き詰めは息がつまります。接客中心の職種によっては真似をするのは少し無理があるかもしれません。もっと注目されて欲しいビジネススタイルです。

接客においてお客様の顔を覚えていられない症状を抱えても接客の指導ならむしろ高い戦力に

新規出店する自動車販売店において新人の接客に対して模擬販売のロールプレイングについて、丹野さんがアドバイスしている姿が出ていました。

車の説明で「ダウンサイジング」という言葉をつい使ってしまっていた新人さんに、もっとわかりやすい噛み砕きながら説明した方が良い。お子さんづれのお客様に、自分も子供がいるんですよなどとフレンドリーな接客をしている姿に影は見えません。

とてもいきいきとしています。

ほとんどの人が認知症になると会社からクビになる絶望的な心理に

筆者は、認知症になるとそれを隠しながら働き続け、ますます自分の病気や障害をオープンにできない悩ましい当事者について、深く考えさせられます。

丹野さんは、覚えていられない障害つまり記憶障害を41歳の若さで発症しています。これは脳梗塞やガン心臓病など重たい病気になれば今の職をやめざるを得ない人が多いことの端的な例だと思わざるを得ません。

職場をやめざるを得ないという社会環境、企業風土に風穴を開ける時期に。

丹野さんが楽しみにしているのが認知症に抱えながら生きる当事者の会の談話会だそうです。番組では同じ障害を持つもの当事者どうしが悩みを語り合い、励まし合う姿が映されています。一緒に歌を歌ったりもしていました。

卒業生でいうところの同窓会のような雰囲気と言ったら伝えきれるでしょうか?

自らパニックになってしまうほどの絶望的な病気になった人たちの横のつながりが今切実に求められています。そして、地域の支援も重要になるばかりです。従来の本人・家族・企業・地域・行政がバラバラでの縦方向の自助努力や支援から、横方向にもITなどを活用しながら支援の輪が広がります。「認知症サポーター」が630万人を超えたそうです。

認知症サポーターの広がりを示すロバ隊長グッズの様子、各地域に根ざしている

認知症サポーターの広がりを示すロバ隊長グッズの様子、各地域に根ざしている

これは、妊娠・出産・育児で横のつながりが広がる動きと少し重なる部分もあるのかもしれません。企業社会の中心からわずかでもずらされた痛みについて私達はあまり関心をもってこなかったからこそ、今回の番組には筆者にはズシリと重たい感触で視聴せざるをえませんでした。(*2)

丹野さんが当事者として「認知症は恥ずかしい病気でもなく誰もがかかる病気」と熱弁

認知症をテーマにしたシンポジウムでは丹野さんは当事者として熱く語ります。

自分は病気である若年性アルツハイマー型の記憶障害をオープンにできた。これを隠してビクビク働いている方はさぞ辛いはずで、誰が認知症になっても恥ずかしくない社会へ

積極的な社会づくりを呼びかけています。

丹野さんのように前向きに働き、そして丹野さんの周りを囲む優しい職場が日本の全国津津浦浦に広まるように、ささやかながら筆者もこの職場と丹野さんを尊敬するとともに障害を持ちながらも会社の戦力として働く丹野さんにエールを送りたい気持ちでいっぱいになります。

参考リンク

テレビ東京 番組サイト ガイアの夜明け|それでも働き続けたい~認知症と仕事が両立できる時代~07月14日放送 第673回放送公式サイト

(*1)ワーカーズコープとは労働者協同組合といい、自らが出資して資本を共同で運営して事業を行う共同組合のことのようです。

 (*2)

ガイアの夜明け/鳥取大学病院の看護師子育て支援に全国から熱い視線!

で後半で取り上げた子育ても家事も経験のある専業主婦に新米専業主婦に家事ヘルパーと子育て支援を総合的に支援するドゥーラという組織が参考になるかもしれません。

全国キャラバン・メイト連絡協議会

認知症を知り、地域をつくるキャンペーンを展開

東京都新宿区市谷田町2-7―15近代科学社ビル4階
電話:03(3266)0551 FAX:03(3266)1670

『海馬 脳波眠らない』の東大を卒業し記憶をつかさどる脳の組織「海馬」の研究で有名な池谷博士は、物忘れも激しいようです。それでも普通に社会生活が営めるというのは「物忘れ」に対する社会の固定観念がまだ強すぎるのではないでしょうか。

池谷氏のエピソードで先週行った実験を翌週再度行おうとして学生から先週の内容だと指摘されたとジョークを飛ばしています。